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福岡高等裁判所 昭和51年(行コ)20号 判決

控訴人(被告) 田崎五郎

被控訴人(原告) 藤井昇 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人代理人は、「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二、当事者双方の事実上および法律上の主張は、次に掲げるほかは、原判決の事実摘示のとおり(ただし、原判決三枚目裏一一行目に「体養」とあるのを「休養」と、同一五枚目表九行目に「振業産業」とあるのを「振興産業」とそれぞれ訂正する。)であるから、これを引用する。

(控訴代理人の当審における陳述)

訴外組合が森林行政事務を代行しないとしたら、町は右事務担当の職員を別に採用して、その者に給与を支払わなければならなかつたはずである。現に、大谷が訴外組合に出向中は、町には森林担当の職員は一人も居なかつたのである。更にもし、町だけで森林行政をするとすれば、大谷級の人物一人ではその責務を完遂できない。なぜならば、広域の森林行政はその調査、指導、その他各方面で多くの手足を必要とし、また、各種の資料の蒐集には多人数の協力が要請されるからである。したがつて、大谷級の人物の外に、一名あるいは二名の補助者を必要とし、これらに給与を支払わなくてはならなかつたはずである。

結局、町は大谷に給与を支払つて訴外組合に出向させたことによつて、金七九六万一五五五円の出費があつたが、反面、森林行政事務担当の職員二名位を採用してこれらの者に給与を支払うべき出費を免れており、それだけ町は利益を得たことになる。この二名に支払うべき給与は、少くとも大谷に支払つた給与より多額であることは明白である。そうすれば、損益は相殺されるべきであり、犀川町には損害はなかつたといわなければならない。

三、被控訴人ら代理人は、甲第一ないし第三号証を提出し、原審証人大谷勝亮の証言を援用し、乙第九ないし第一一号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認めると述べた。

控訴代理人は、乙第一ないし第一八号証(ただし、第一七号証は一、二)を提出し、原審証人大谷勝亮、同内田正昭、同佐々木美奈子、当審証人中園郷八郎の各証言、原審および当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの控訴人に対する本訴請求は正当として認容すべきものと判断するものであるが、その理由とするところは、次項の説示を附加するほかは、原判示の理由説示と同一である(ただし、原判決九枚目裏四行目の「被告本人尋問」を「原審および当審における控訴人本人尋問」と改める。)から、これを引用する。

二  控訴人は、犀川町は大谷を訴外組合に出向させることによつて、森林行政事務担当の職員二名位を採用してこれらの者に給与を支払うべき出費を免れたと主張し、当審における控訴人本人の供述中には右主張に副う部分がある。

しかしながら、控訴人の右主張は、何ら確実な根拠に基づかない独自の推論によるものであつて、採用できない。なんとなれば、右主張は、訴外組合が森林行政事務を代行し、その事務量が本来犀川町において森林行政事務担当の職員二名位をもつて処理するのに相当する分量に上ることを前提とするものであるところ、そもそも、訴外組合が代行したと称する行政事務(原判決別紙記載のもの)が、はたして犀川町の行政事務に属するものであるかどうかは甚だ疑問であり(この点に関する原審証人大谷勝亮、同佐々木美奈子の各証言、原審および当審における控訴人本人の供述は、そのまま採用できない。)、むしろそのほとんどが訴外組合の当然なすべき固有事務(森林法第七九条に掲げる森林組合の行う事業)と考えられるのであつて、これが犀川町の行政事務であることを確定できない以上、控訴人の主張はすでにこの点において前提を欠くことになる。したがつて控訴人の損益相殺の主張は理由がない。

三  そうすると、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢頭直哉 土屋重雄 日浦人司)

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